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補修タイルの今を語る

補修タイルの今を語る!

「設計事務所が建物の管理・維持のアドバイスをするべき」堀 江

「補修ではなく復元することが大切です」赤 井

使い続ければ、いずれ壊れる。マンションなどの建物も例外ではない。30年、40年間使い続けた建物が、当時の美しい外観を維持することはできない。特に外壁タイルは経年による汚損や地震影響などでタイル破損が発生し老朽化する。建物の所有者は維持するため定期的にタイル補修を行っているが、本当に当初の美しい姿になっているのだろうか。

実際は、納期などの影響で本来の姿を取り戻せていない建物が多いのも現実だ。もし、本来あるべき姿に復元できるとしたら?それを実現すべく、現システムをイチから変えようとしている2人のスぺシャリストが対談。設計事務所とタイル復元屋による新プロジェクトが始まる。

赤井祐仁 -アカイユウジ- × 堀江 薫 -ホリエカオル-

赤井 祐仁 [株式会社復元屋 代表]

高校卒業後レーサーを目指して上京するが、プロの壁を目の当たりにし、帰省。「やるからには1 番を」の精神で、父の後を継ぐため株式会社アカイタイルに入社。2006年に取締役社長に就任。復元屋プロジェクトを立ち上げる。常に新しいことに挑戦し続け、タイルメーカーの可能性を広げている。

堀江 薫 [株式会社 ボス建築研究所 代表]

1955年3月生まれ。今後マンションなどのストック建物の維持が社会的ニーズとして重要になるとの思いから、1990年35歳の時に建物の調査、設計・監理、長期修繕計画の作成、建物維持保全のコンサルティング業務を中心とした設計事務所を渋谷・代官山に開設2004年に神奈川・葉山にて『BOSS建築研究所』を設立し現在に至る。

きっかけは東京駅の復元

堀江 薫(以下堀江) アカイタイルさんへ来たのは今日で4回目。前回伺ったのは、製造現場をぜひ見たいというマンション管理会社の役員の方と一緒でした。管理会社の役員の方は、建物の所有者からタイル発注を受けたのですが、発注から納品までの流れの中で直販できるシステムに興味をお持ちになったので来ていただきました。もう70歳を超えている方なのですが、とても精力的にお仕事をされている方でした。

赤井祐仁(以下赤井) そうでしたね。元気な方でした。今回はその仕組みについてお話をしていきたいと思います。堀江先生とは取引業者さんからの紹介がきっかけでしたが、お電話した際、東京駅の外壁の復元をした記事を新聞で読んだとおっしゃっていました。復元に興味を持たれたのはなぜでしょうか。

堀江 建物を長期にわたって維持するには、12~15年ごとに修繕や改修していく必要があります。その際、タイルの張り替えも行います。そこで起こる大きな問題が、建物の所有者さんが新築時に修復用タイルを保存していないこと、例え保存していたとしても枚数が足りないことです。

タイルが保存されていれば困らないのですが、そのような慣習も法律もありません。そこで、改めてタイルを作るのですが、発注や納期のタイミングの影響により、どうしても復元精度が充分ではないタイルを張ることが多くなっていました。

工事終了後、斑模様など外観が崩れてしまうことでお客様が、がっかりしている顔を目の当たりにし、このようなことがあってはならない、建物を長期に渡って使うにはタイルの復元精度を高める必要があると思うようになりました。そもそも改修工事の施工会社からタイル工事屋さん、ディーラー、窯元へと、まるで伝言ゲームかのように発注しているからズレが生じる。そこで、直接窯元と話のできる仕組みを作れないかと考えていたら、たまたま東京駅の外壁を復元した中小企業があるとの話を聞き、赤井さんに辿り着いたのです。

「復元屋」というネーミングにも惹かれました。コンセプトが分かりやすいですよね。赤井さんはタイルの復元を以前からやられていたのですか。

赤井 弊社は大正14年創業なのですが、元々は新築のタイルを下請けで製作していました。2000年頃からOEMも含め特注が多くなり、設計士の要望で色や質感、形状を具現化することを行ってきました。それが評価されたのか、徐々に復元の仕事が増えはじめ、特に歴史的建造物に多く関わらせていただきました。

当初はこれが仕事になるとは思っていませんでしたが、東京駅の外壁を復元する話をいただき、進めていく中でマンションでも同じ仕事があることを知りました。新築の特注タイルを作ることで培ってきた、設計士のイメージを具現化できる高度な技術を活かせる市場だと思い、踏み出したのです。ただ、同時に悩みもできました。時代の流れもあるとは思いますが、短納期でスピードを求められる仕事が多くなってきたのです。

タイルは天然の原料を使い種類も多いため、色を合わせるには時間を要する物もあります。ただ、それは試験を重ねればクリアできること。ある程度の納期をいただければ、より満足のいくタイルを作ることができます。

業界の慣習・所有者の意識を変えたい

堀江 現在は建物所有者(管理者)が施工会社へ発注して工事をする流れのため、タイルの張り替え作業は工事のひとつとなっています。工事発注を受けてから準備をすると、納期まで約2ヵ月ほどと期間が短いことが多い。もし建物所有者側に例えば4万枚保存されていれば、今回1万枚を使用する修繕を実施しても3万枚残るため次の工事も問題なくできます。このような環境が建物所有者側にあれば問題ないのですが、今は受注した施工会社がタイルの必要枚数を推定して赤井さんへ発注しています。

そのタイミングはタイルを剥がす時期から逆算しても1~2カ月前であることが多いため、工事現場から早く納めてほしいと強い要望がでる。だから、納期の関係上、精度を高めたタイルを納めたくても突き詰められないまま出さざるを得ないのだと思います。また、建築基準法の第8条に「建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない。」という規定があるのですが、定期的な点検などは行われるようになったのですが、個別の建物維持保全に必要なマネジメント環境について整備できているとは思えません。それをアドバイスしていく機関や技術者もまだ十分とは言えない状況です。

今後は、建物の管理会社だけでなく設計事務所がその役割を積極的に担うべきだと考えています。修繕する前に建物の調査をすることが一般的なため、タイルが何枚必要か推測できます。工事計画立案段階や修繕設計段階で建物所有者がタイルを直接発注する仕組みを作れば、安定してタイルを保存でき、施工時の納期やタイル精度の問題も解決します。所有者がタイルを買う意識を持てるようにしたいですね。

赤井 所有者さんには、30年、40年前のタイルが今も世の中に存在するイメージがあるのかもしれません。しかし、当時のタイルは特殊なものもあるため、今はほとんど作られていません。それを当時のサンプルを元に復元するのが弊社の技術です。

堀江 先日東京の原宿でヴィンテージマンションの修復をした際、先にタイルの修復をお客様と一緒に行いました。マンションの管理組合から直接アカイタイルさんへ発注していただいたのです。赤井さんがおっしゃるように、40年ほど前のマンションでは特殊なタイルを使っていることもあります。今回それを復元するため、タイルを焼くところから始めました。大変でしたが、所有者さんが70年、80年使うための準備をしたいとの話から実施できました。

赤井 この時は1年ほどと時間を掛けましたが、通常なら120日いただければ満足できるものが作れます。これぐらいの時間をみていただけると復元しやすいですね。

ちゃんとしたタイルを作るための120日

堀江 特殊なタイルを復元するには4ヵ月(120日)の期間がないとできないと思います。長期修繕計画の中で、タイルの復元と保存をどのタイミングでするのかをマネジメントすることが非常に大切。それは、ちゃんとしたタイルを作るための方法でもあります。

赤井 そうですね。いい仕事をするためには、4カ月という期間と設計士、管理会社とともにタイルの復元を行うことが必要だと思います。

弊社には、小さい窯だけでなくトンネル窯という大きな窯もあるため、小さいものから大きなものまで作れます。トンネル窯は連続焼成のため、5平方メートルも50平方メートルも関係ありません。2回焼かなければいけないものを1回でできるため、コストも抑えられます。また、復元屋として手作りにこだわり、一個一個を手加工で妥協せず小ロットでも作っています。1000年の歴史を持つ焼き物の産地、常滑の伝統とプライドですね。

堀江 私はタイルが届いたら、お客様から承認をもらうために試験張りをします。5メートル離れて10秒以内に張り替えた場所が分からなければOK。本当に張り替えたの?と言われるのが理想ですね。張り替えた部分がすぐに分かってしまうのは問題。そうならないために、復元技術は重要ですよね。

事前準備を商品化する

赤井 補修ではなく復元することが大切です。クラックや老朽化などでの補修ではなく、本来あるべき姿に復元する。そのためには、やはり4ヵ月ほど必要です。4ヵ月前からこのような仕組みで進めれば、満足できるタイルが作れます。

新たな仕組みでは、今までは施工会社さんがタイルを採取して送っていただいていましたが、今後は直接相談をいただけたら弊社のスタッフが現場へ行き、サンプル用のタイルを採取して色合わせを行います。

堀江 建物所有者は、施工会社に頼めば何でもやってくれると思っているのでは。実際に問題点もありますし、終わるまで分からないことが多いですから建物所有者にはちゃんと知っていただきたいですね。終わってガッカリするのを回避するために、「事前準備を商品化する」ことが大切だと思うんですよね。

マンションのオーナーさんたちは、復元できることによって価値を落とさず本来あるべきマンションにすることができ、施工会社も短い納期で発注することで起こるクレームを回避することができる。みんなにとってもいい仕組みだと思います。また、分譲マンションでは長命化を推進し建物を100年使用する考えが目標になってきています。次の世代へ建物を残すためには、復元技術は重要です。

赤井 ぜひ工場へお越しいただき、物づくりの現場を見ていただきたいですね。必ずや意識が変わると思います。それが業界で高まれば、建物だけでなく未来の街の価値も高まっていくと思うのですが如何でしょうか。

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